海を渡り我が国へもたらされた仏教が、日本古来の山岳信仰と結びついて誕生した蔵王権現。「権現」とは仏や菩薩が衆生を救済するため「権の姿で現れる」ことを意味し、神であり仏でもある神仏習合の象徴です。
修験道の開祖、役行者が力強い仏の出現を祈願したところ、岩を割って飛び出してきたのが蔵王権現とされます。右足を高く踏み上げた独特のポーズはまさにその瞬間を表したもので、釈迦如来（過去）・千手観音（現世）・弥勒菩薩（未来）の三仏の徳を兼ね備える霊験あらたかな修験道の守護神です。

後醍醐天皇の勅願寺とされた如意輪寺が所蔵する蔵王権現立像は、左足ほぞの朱書銘から嘉禄2（1226）年、慶派仏師 源慶が制作したものと判明した重文です。均整のとれた自然なプロポーション、着衣や強い憤怒の表現など破綻なくまとめられた造形表現には、源慶の力量がいかんなく発揮されています。

イスムでは、慶派仏ならではの迫力と臨場感漲る造型を損なわぬよう造型。片足で立つポージングに堂々とした安定感を持たせながら、きつく刀印を結ぶ指先、踏み上げた足の指先に至るまで張り詰める緊張感を表現しました。体躯に鮮やかに残る彩色はグラデーションを多用し、深みのある仕上がりとすることで強さと鮮やかさを表現しました。